■経済の長期停滞は先進国の文明病か
ローレンス・サマーズ他『景気の回復が感じられないのはなぜか』山形浩生編訳・解説、世界思想社 山形浩生さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。 2008 年にリーマンショック(金融危機)が起きたとき、私たちは「バブルがはじけた」と考えました。 しかしローレンス・サマーズによれば、これはバブルがはじけたとはいえない。というのもまず、その当時のインフレ率をみると、ぜんぜんインフレになっていなかった。物価は安定していたし、景気も過熱していなかった。だから金利は上昇していなかったのですね。 つまりリーマンショックは、バブルがはじけたというよりも、それまでの通常の経済の底が抜けたような感じになった、と理解したほうがいい。 いや正確には、「通常の経済の底が抜けた」というよりも、それ以前もそれ以降も、アメリカの経済は総需要が不足していて、完全雇用を実現できていないわけで、そういう状況が長期的に続いている。つまりこれは、アメリカ経済全体が、長期停滞のメカニズムに入り込んでいて、リーマンショックはその中で起きた破局だった、というわけですね。 はたしてこのような現状認識は正しいのかどうか。 サマーズの見解に対して、バーナンキが反論するわけですが、総括すると、2人の見解は補い合っている面が多々ある。それから、政策的な次元では、あまり対立がなかったりする。 いずれにせよ、この長期停滞は、現在の先進諸国の「文明病」としてあるのか、それとも一時的なものなのか。まさに資本主義に対する歴史的なビジョンが争われることになりますね。 この論争は、現在の新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受けて、さらに長期停滞論へと傾くのかどうか。米国を含めて先進諸国では、現在の財政出動を正当化する際に、重要な論点であり、経済学の知恵を絞って、日本でも十分に議論していく必要があると思いました。