■コモンズと資本主義のハイブリッド形態
河西勝『宇野理論と現代株式会社』社会評論社
河西勝さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。
大作であります。宇野(弘蔵)理論のオリジナリティは、私的な資本というものが、社会性を築いていくことを論証している。しかもこの点は、マルクスの『資本論』の目標を超えている、というのですね。
株式会社は、それまでの会社と違って、たんに私的利益を追求するのではなく、社会的な利益を追求する存在になる可能性がある。その可能性は、株式会社の発生とともにあり、そしてまた最近では、リフキンの『限界費用ゼロ社会』に描かれていると。
例えば私たち市民は、地域でお祭りをするために、公共的な空間を貸し切り状態にして、集まる権利をもっています。祭りは、自治会などが運営しますが、そこには民主的で協働的なガバナンスの仕組みがあります。この協働の仕組みは、コモンズです。
アメリカでは、こうしたコモンズと市場のハイブリッドを手掛けるような、新しいビジネス・モデルが出てきた。「ベネフィット・コーポレーション」と呼ばれる組織ですね。ベネフィット・コーポレーションは、資本主義的な企業の目標を、非営利団体の目標に近づける。あるいは反対に、非営利団体の目標を資本主義的な企業の目標に近づけるのですね。例えばお祭りは、非営利団体(自治体)によって運営されますが、これを資本主義的な営利目的に近づけるというわけですね。
そのようなハイブリッド・タイプの会社を、「低利益有限責任会社(L3C= low limited liability company)」と呼びます。そのような会社に新たな法的形態を与えると、資本主義は人々の「社会的起業家精神」を引き出すことができる。そして資本主義もまた、社会性を獲得していくことになる。こうしたダイナミズムが、宇野理論の現状分析に接続されうるというのは、興味深いと思いました。