■福祉国家と卓越主義リベラリズム

 



 

金田耕一『貧民のユートピア 福祉国家の思想史』風行社

 

金田耕一さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 

福祉国家の思想史研究です。

ジョン・ロック、アダム・スミス、ベンサム、スペンサー、ウェブ夫妻、ニュー・リベラリズムについて、検討しています。すでに私は金田先生のこの本の元となるご論文をいくつか拝読していました。大いに影響を受けました。

 本書の終章で、この思想史研究から得られる規範的な含意が述べられています。「したがって課題は、新自由主義によって衰弱した福祉国家を再建することではない。お互いのニーズをみたし、お互いをささえあいながらも、人々に屈辱を与えることのない「品位ある社会」を作ることである」と。(267)

 そしてこの品位ある社会というのは、最低限の品位だけを満たす社会ではないと考えるのですね。「市民が共有するのは「偉大さ」や「名誉」「尊厳(アレント)といった理念であり、それゆえ政治的関心となるのは「尊厳ある生(vita dignitas)であるだろう」と。

 これはいまの規範理論の用語では、卓越主義リベラリズムの立場であると思いました。

「品位」という概念には、広がりがあります。私たちが「最低限の尊厳」を求めていても、それはいつのまにか「もっと尊厳を」となり、終局的には、「偉大さ」という、最大限の尊厳へと向かって要求を強めていく。そのような政治的要求の広がりというか、概念のインフレーションを内包していると思います。

 その意味で、「尊厳」とは、最低限のニーズには収まらず、それを超える運動の概念であるのだと思います。しかし「偉大さ」という最大限の尊厳は、卓越主義的な個人主義を超えて、集団的な偉大さの追求にもなりうるでしょう。これをどのような政治構想として理念化するのか。あるいはこれを阻止するのか。これが問題であるとおもいました。

 本書は、2020年に逝去された志賀兼充さんに捧げられています。金田さまと志賀さまの出会いは、強烈だったのですね。そのエピソードに刺激を受けました。

 


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