■宗政家、前田誠節の名誉のために

 




藤田和敏『悲劇の宗政家 前田誠節』法蔵館

 

 江戸幕府の崩壊とともに、仏教界は、組織の近代化(民主化)を迫られました。その改革を担った人たちを「宗政家」と総称するのですね。

 明治時代に、日本に「仏骨奉迎」があった。ところがそれを担った日本大菩薩提会(各宗派の連合)は、巨額の負債を抱えてしまう。財産差し押さえを逃れるために、妙心寺の前田は、妙心寺の資産でこれを立て替えることにした。しかしこの立て替えのために妙心寺のお金を使ったことで、藤田は刑罰を受けることになる。

 これはそもそも、お金を拠出しない各宗派の無責任さが問題ですね。各宗派の連合が機能していない。そうした連合の弱さ、無責任さを認識せずに、この団体が、仏骨の一部を日本に奉迎するというイベントを組織したこと自体、誤った判断であったのでしょう。

 前田は重禁錮一年六か月、監視六か月の刑に処されました。

 前田はその後、隠棲生活を送り精進しますが、心のなかにはどうにもならない孤独を抱えていた、というのですね。

 「世間の評価には関知しない。自分は仏道のため、仏法のために最良の方法を採ったのであり、多くの人々の代わりに最も激しい苦しみを受けた。私利私欲など全くなく、後ろめたいことなど一点もない。百年が経過すれば、後世の者はそれを知るであろう。」(176)

 本書を読んで、前田誠節の名誉を回復すべきだと思いました。


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