■進化政治学の三部作

 



 

伊藤隆太『進化政治学と平和』芙蓉書房出版

 

伊藤隆太様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 

一作目の『進化政治学と国際政治理論』(2020)、二作目の『進化政治学と戦争』(2021)、に続いて、今回、三作目の『進化政治学と平和』(2022)を上梓されましたことを、心より祝福します。

これらの三部作によって、日本ではほとんど実態が知られていなかった進化政治学という学問が、明快に示されたと思います。進化政治学は学問のフロンティアであり、現在、様々な関心が注がれ、刺激的な議論が展開されます。以上の三冊は全体で、その羅針盤となっています。

 第一作目は、研究業績として最もすぐれていると思います。進化政治学の知見を、国際政治における具体的な事例に適用して、一定の説明を試みている点は貴重です。第二作目は教科書的なスタイルであり、これを読めば進化政治学が分かるという内容です。

そして今回の第三作目は、進化論的な政治学が依拠する政治思想的基礎として、進化論的なリベラリズムという理念に関心を注いでいます。

 一般に進化政治学とか、進化〇〇学というと、それは既存のリベラルな立場とは別の、保守的な立場から関心が寄せられます。例えば、進化論的な見地から、フェミニズムの立場を批判するなど、反リベラルな言説に関心が集まります。しかし今回の著作『進化政治学と平和』は、基本的にはピンカーの啓蒙主義的なリベラリズムの立場を支持しており、この点で、進化政治学のイメージをリベラリズムの方向に展開/転回するという、重要な試みとなっています。進化政治学は、リベラリズムの学問であるというわけですね。

 ただ、この第三作目は、内容としてはそれ以前の著作と重なる部分も多く、またピンカーなどの進化論的なリベラリズムを紹介されていますが、私からみるとこれらの議論は単純で、深みがないようにみえます。思想的に詰めが甘く、妥協が多く、新しい理念を喚起する力はあまりないと思います。ピンカー的な進化論的リベラリズムは、思想としては独自性を欠いていて、しかし今後、さらに発展させる価値があるでしょう。例えば、Gerald Gausなどの議論を踏まえて、ハイエクを超える進化論的なリベラリズムの思想を構築していくことは、現代の思想研究が取り組むべき、一つの課題でしょう。

 いずれにせよ今回、この三部作を完成されたことは、伊藤さまのご研究が、これからさらに進化していくことを予期させます。具体的なケースへの適用や、世界で通用しうる、日本発の新しい進化政治学の理論構築を期待しています。


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