■フランク・ナイトの企業家精神論

 



 

フランク・ナイト『リスク、不確実性、利潤』桂木隆夫/佐藤方宣/太子堂正称訳、筑摩書房

 

桂木隆夫さま、佐藤方宣さま、太子堂正称さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 

 この本は以前にも翻訳が出ていましたが、だいぶ前の翻訳なので、新たに翻訳された意義は大きいと思います。経済思想・経済学史を志す人にとって、必読の古典ですね。

 ナイトは本書のはじめに、この本は「根本的に新しいところはない」と断っていますが、これをどう評価するかですね。

ナイトは、計算可能な不確実性(=リスク)と計算不可能な不確実性(=不確実性)を分けて、後者の不確実性を引き受ける機能を「企業家精神」に結びつけたわけですね。これは経営の能力とは異なる機能であり、とくに誰が担っているという実体的な定義ではなく、機能的な定義なのですが、しかしナイトは、リスクに対処するすべての活動を企業家精神とみなしたわけではなく、例えば集合体(組織)を作ること自体がリスクへの対応になるとか、また、専門化、保険サービスの組織化の意義などについて、いくつかのモメントに分けて考察しています。

一般に「企業家」とは、企業の経営者を指しますが、しかし株式会社においては、不確実性を引き受けるのは投資家(株主)であり、ナイトも指摘するように、そこにはパラドックスが生じています。株主は、経営判断をする人を選ぶ判断をするという、いわば「判断の判断」をするわけですね。このような株式会社の仕組みは、未来を見極める能力よりも、未来を見極める人を判断・評価する能力に、未来の不確実性を引き受けさせるわけで、これは奇妙に見えます。そのメカニズムは複雑ですが、結果としてみると、投資家こそ、企業家精神の機能を担っている、ということになるでしょうか。

ナイトの分析は単純明快ではなく、リスクと不確実性をめぐる複雑な事態を分節化して検討しています。それぞれの検討は、たしかに独創的なものではなく、既存の研究を緻密に整理する、というスタイルです。ナイトはこの点で、何か大きな理論的アイディアをもっていたわけではありません。しかし本書を読むと、リスクと不確実性を誰がどのように引き受けるべきなのか、そしてその引き受け方に応じてどのように利潤を分配すべきなのか、という問題が見えてきます。これは研究のスタイルとして、見習うべき点が多々ありますね。

 


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