■児童労働は道徳を蝕んだのか、育んだのか
ジェーン・ハンフリーズ『イギリス産業革命期の子どもと労働 労働者の自伝から』原伸子/山本千映/赤木誠/齊藤健太郎/永嶋剛訳、法政大学出版局
原伸子さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。
イギリスでは、核家族化が早期に出現しただけでなく、「男性稼ぎ主型」の家族が、工業化以前から出現していたのですね。その結果、稼ぎ主たる男性の扶養能力が失われたときには、家族そのものが存立しなくなるというリスクが高くなる。こうした家族崩壊のリスクに対処するために、イギリスでは早い時期に福祉国家化がすすんだ、というわけですね。
本書は、児童労働の歴史にかんする研究書です。
そこで分かってきたのは、子どもたちが得た賃金の使い道です。子どもたちは、稼いだ賃金を母親に手渡します。母親はできるだけ倹約して、家族全員のためによい食事を提供します。子どもたちにとって、新しい衣服を買うことは重要ではありませんでした。児童労働が全般化した産業革命期には、加工食品が発展したというのですね。これは興味深い分析です。児童労働とともに、ジャム、ビスケット、甘いもの、パンなどが発達することになった。
子どもたちは、大きくなると本やその他の娯楽を楽しむようになった。こうした史実から見えてくるのは、イギリスの労働者たちの道徳性です。いまでは「新保守主義」という言葉で語られることも多いですが、イギリスの児童労働と道徳性の関係について、本書は興味深い内容を伝えています。