■市場原理主義やグローバル化は諸悪の根源ではない






井上達夫/香山リカ『トランプ症候群』ぷねうま舎


(1)
「市場原理主義のグローバル化が諸悪の根源だといわれることには、問題がまるで違う」というのですね。
 アメリカは、自国では保護主義や開発主義をやっているくせに、日本に対しては保護主義がダメで開発主義もだめだ、というバッシングをしてくる。こういう場合、日本だってアメリカと同様に保護主義と開発主義をやっていいじゃないか、ということにはならない、というのですね。途上国に対しては関税障壁を下げるべきであると。
(2)
 放送の許認可制度については、その存在理由として、「周波数の稀少性」があったけれども、しかし現在では、衛星放送やケーブルテレビの登場で、周波数の稀少性はいまや許認可制の根拠にはならなくなった。長谷部恭男は『テレビの憲法理論』で、別の正当化根拠を論じたけれども、それはメディアを規制することの危険性にあまりに無頓着なものだ、というのですね。
(3)
 日本では、おかまなどの同性愛者に対しては、アメリカよりも寛容であります。しかし、家族制度に対しては、選択的夫婦別姓に対して、日本人は不寛容です。「反対」の世論が圧倒的に多いですね。こうした世論のせいで、政治家も、選択的夫婦別姓制度を。政策化できない、という状況がある。
この場合、日本は儒教圏だから家族制度を重んじるのだ、だから選択的夫婦別姓には反対するのだ、というのはヘンですね。中国も韓国も伝統的に夫婦別姓だからです。ではどうして日本の世論は、選択的夫婦別姓に反対なのでしょう。ありうる説明は、慣習だから、というものであり、この場合の慣習は、「儒教」といった大きな枠組み(そしてそれを基礎とする保守主義)よりも、もっと小さくて個別のものでしょう。

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