■株主が担うべき役割とは







中村隆之『はじめての経済思想史』講談社現代新書

中村隆之さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。

「株主主権」という論理は、次の二つの点で困難であるというのですね。
一つは、労働者との雇用契約は不完全であり、労働者にどの程度仕事してもらうか、どの程度の賃金を支払うか、どの程度学習してもらうのかというのは、事前に確定した契約はできないという点です。こうした不完備な契約の場合、労働者たちにたくさん働いてもらって得ることのできた利益は、だれのものなのか、という問題が生じます。「残余利益」をどのように配分するか、という問題ですね。これをすべて株主の主権でもって決めるというのは無理がある。会社と労働者とのあいだの契約は不完全なのだから、会社の経営方針をめぐっては、労働者にも意思決定に参加してもらう、というのは自然な発想ですね。不完全な契約をその都度明確にしていく、そのようにして雇用契約を「契約」として納得のいくものにしていく、そのようにする必要があります。
もう一つには、株主は十分な経営情報をもっていない外部者なので、監視能力に限界があるという点です。株主が「残余利益」を最大にするインセンティヴと能力を持っていると判断するのは、やはり無理がありますね。とはいっても、経営者や労働者がそのようなインセンティヴをもっているとは限りませんから、この点は結局、試行錯誤してみないとわからない点がありますね。正規の労働者は、長期雇用を持続させるためのインセンティヴをもつでしょう。しかしそのようなインセンティヴが、結果として経営判断に失敗する可能性もあります。あるいは非正規雇用者たちを経営判断の民主的な意思決定のプロセスから排除することもあるでしょう。
 いずれにせよ、株主主権が絶対的なものではないとして、株主は「労働者」たちに創造的な仕事を展開するための資源を託して、浪費をチェックする役割を引き受けるべきだというわけですね。いわばアカウンタビリティのチェック役ということになるでしょうか。

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