■経済哲学研究の難しさについて
長尾史郎さま、三上真寛さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。
この本が原書で出たときは私もざっと目を通して注目したのですが、昨年、日本で著者の研究報告を聞いたときに思ったのは、この人は深刻なテーマを見つけたのではなく、たんに衒学的な関心から哲学にすすんで、それで経済学方法論の基礎的な事柄をまとめたに過ぎないなという感じがしてきました。でもそれにしても、ここまで現在の行動経済学やゲーム理論をしっかり理解したうえで、その基礎論について論じることができるほど頭のいい人はいないでしょう。その意味で、本書は貴重で稀有な現代経済哲学の達成であることは確かです。
おそらく、哲学的な基礎付けのある経済学を擁護するという考え方は、私たちをどこにも導かないというリスクを冒すことになるでしょう。このドン・ロスと比較すると、現代の行動経済学やゲーム論を哲学的に検討しているジョセフ・ヒースは、自分のオリジナルな哲学を展開し、もって新たな規範理論への道筋を示しています(『ルールに従う』)。
経済哲学というのは、新しい観点を携えて既存の理論と向き合わなければ、そして既存の理論を評価するのでなければ、意義深い研究にならない、たんなる衒学趣味に陥るのではないか、というのが私の感想です。