■気候工学で温暖化を防ぐとモラルハザードが起きる






吉永明弘/福永真弓編『未来の環境倫理学』勁草書房

桑田学さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。

最近の気候工学の動向は、とても興味深いです。
 大気中の二酸化炭素を人為的に除去する方法とか、太陽放射を人為的に管理するとか、一見すると空想的に見える技術でも、かつてオゾン層の研究でノーベル化学賞を受賞したパウル・クレンツェンが提唱しているとなると、耳を傾けたくなります。
 「成層圏エアゾル注入」と呼ばれる、硫酸エアゾルの散布による太陽入射光の反射率の上昇という技術は、うまくいく可能性があるのですね。しかしこの技術を導入して、かりに温暖化を防ぐことができたとしても、私たちの産業社会は、その技術に頼ることで、モラル・ハザードを起こしてしまうかもしれません。エネルギーをたくさん使う先進諸国の私たちが、二酸化炭素をたくさん排出することを正当化してしまうでしょう。
 結局、エネルギー資源の枯渇の問題と、温暖化の問題は別に扱うほうがよい、という気がします。(拙著『ロスト近代』で、私はそのように書きました。)かりに温暖化の予測が外れたとしても、あるいは温暖化を防ぐことができたとしても、先進諸国はエネルギーを節約し、自然エネルギーへの転換を図っていく倫理的責任があるのではないか。
 しかし私たちの知恵と実行力が及ばず、温暖化を防ぐことができないのであれば、気候工学によって大気を管理するという、気候工学に頼らざるを得ない日が来るかもしれませんね。その方針は、イデオロギー的に見れば、環境政策に関する世界政府を正当化することになるでしょう。この種の問題に、私たちは倫理的に備えがなければなりません。まさに現代の倫理学の課題であります。


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