■ベルリン大学の創設は自由のイノベーション






仲正昌樹『思想家ドラッカーを読む』NTT出版

仲正昌樹さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。

ドラッカーによれば、イノベーションには「マネジメント」のほかに「企業家戦略」が必要であり、それは「総力戦略」「ゲリラ戦略」「ニッチ戦略」「顧客創造戦略」の四つの戦略からなる、というのですね。
 ここで「総力戦略」とは、企業の全力を挙げてその業界のトップを狙う、できれば市場の独占を狙う、という戦略です。事例としてドラッカーは、フンボルトによるベルリン大学の創設を挙げています。
フンボルトにとって、ベルリン大学の創設は、新しい政治体制を生み出すための手段でした。ベルリン大学は、それまでの最大規模の大学の3-4倍の規模の総合大学を目指します。そのような大胆な戦略のおかげで、ベルリン大学は、西欧史上最大のエリート養成校となります。
 フンボルトは、それまでの報酬の10倍で有名な教授たちを雇い、莫大な財政負担をかかえる中で、もう後戻りできないという「真剣な賭け」をしたのですね。これはかなりのイノベーションですね。なによりも、次のようなビジョンが革新的だった。すなわち、ベルリン大学を卒業するエリートたちの主導でもって法治国家を実現すれば、国民はあまり政治に関心がなくても、自由な国家を運営できる、というビジョンです。こうした発想は、まさにベルリン大学によって主導された統治形態であり、ドラッカーのいう「総力戦略」であったわけですね。

このブログの人気の投稿

■「天」と「神」の違いについて

■リップマンは新自由主義の立役者

■ウェーバーの「権力」概念を乗り越える