■アメリカの経済覇権を超えるには
訳者の皆様、ご恵存賜り、ありがとうございました。
アメリカの資本主義の歴史を概観するのに適した本です。私たちの同時代の歴史として、新聞その他で聞いたことがあるような話題を織り交ぜながら、20世紀以降の通史を描いています。
「覇権」という点から考えると、1980年代に日本が経済面でアメリカを脅かしたとき、日本はアメリカに代わる経済的覇権をとる可能性があったわけですね。そのような視点で考えてみると、なぜ日本は「ルーブル合意」や「プラザ合意」で失敗したのか、という検討課題が生まれます。日本は、アメリカとの貿易摩擦を引き起こすほど経済的に成功しながら、結局、アメリカの覇権に組み込まれてしまった。これはどうしてなのか。アメリカは結局のところ、貿易戦争で負けても、金融的な覇権を強化していくことに成功した、というわけですね。
現在、中国が経済大国となり、アメリカに代わる覇権をとる可能性があります。でも中国は、金融面では、アメリカに代わるシステムを築くようなことはしていません。むしろアメリカのやり方に従っている。だから、中国が経済的な覇権を握ることも難しいのではないか、と考えられるのですね。
これはつまり、「金融の覇権」こそが、世界経済の覇権を握るカギであり、アメリカが最先端の技術と優れた人材を集めて、金融システムを進化させていく能力をもつかぎり、他の国々では、これに代わる経済システムを構築する「想像力」「構想力」自体が生まれにくいのであると。
するとやはり、アメリカのやり方に従ったほうがようということになります。
けれども将来的には、中国とインドがそれぞれアメリカを大きく上回る経済圏を築くとき、新たな金融システムが両国から生まれてくる可能性はあるでしょう。アメリカの金融システムに代替しうるシステムをいかに構築しうるのか。この観点から歴史を再評価するというのはとても興味深く、またアクチュアリティのある研究であると思いました。