■中世の経済学は、市場の論理を徹底的に解明していた






バーリ・ゴードン『古代・中世経済学史』村井明彦訳、晃洋書房

村井明彦さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。

すばらしい本ですね! 1975年に刊行された本の翻訳ですが、経済学史に関する私たちのビジョンを覆すだけの力があると思います。
市場経済社会というのは、一般にアダム・スミスによって体系的に論じられ、また肯定されたとされます。スミス以前は、市場を社会に埋め込まれたものとして描く今日動態経済の思想が展開されてきた、というのが素朴な歴史観です。しかし中世においてはすでに、市場経済の論理は徹底的に追求されていた。例えばレッシウスは、ワルラスの理論にほとんど近いところまで達していた、というわけですね。
経済学は、中世においてすでに、主観的な価値評価を行う主体から出発して、経済の論理を組み立てるところまで発展していた。ところが近代になって、重農主義あたりから、物々交換の論理へと退却してしまう。
経済学史というのは、中世イタリアで生まれ、そこから資本主義の発展とともに発展した。そのように描かなければならない、ということですね。経済学は、17世紀に完成の域に達していた。主観的価値学説を唱えるオーストリア学派の歴史起源は、すでに中世にあるわけですね(これはオーストリア学派のロスバードの見解でもあります)。このような歴史のビジョンでもって、改めて経済学を描き直す試みは、とても有意義です。

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