■孤独な単独者の実存が研究の出発点
折原浩さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。
今年(2019年)で84歳を迎えられる折原先生にとって、本書がまさに研究人生と実存を振り返る総括の書になっています。かかる書を刊行されましたことを、心よりお喜び申し上げます。
これまでも折原先生は、ご自身の人生を振り返って省察する文章を何度かお書きになられたと思いますが、本書はそのさらなる総括という意味を持つでしょう。
戦後、「(家計の主柱としての)父の病死のため、「欠食児童」で背丈も伸びませんでした」が、「住居の焼失は免れ、それまで住んでいた比較的広い家を他人に貸して、小さな家に移り住み、父の遺族年金をベースに、母がなんとか遣り繰りして、窮境は脱することができました」ということを、私は知りました。
しかし経済的貧困よりも、折原先生にとっては、「縁故疎開による故郷喪失」と「(超自我として「世間の掟」を代表する)父親不在」のほうが深刻で、「「孤独な単独者」の現実存在を注視し、その決断と倫理的行為に力点を置く実存主義のほうに、いっそうの共鳴を感じ、まずはそちらに傾いた」というのですね。52-53頁。
そこには実存主義者キルケゴールの影響があった。もしキルケゴールの影響がなければ、ウェーバーを科学主義者として仕立ててしまったかもしれない、というのですね。
いずれにせよ、「単独者」「本来的実存」というものが、折原先生の研究の価値関心たる「自律的個人」のなかにある。このことが述べられており、この実存的な個人の生き方が、これまでのご研究を貫いていることが分かりました。