■ブレア政権の「第三の道」から学ぶべきこと





今井貴子『政権交代の政治力学 イギリス労働党の軌跡1994-2010』東京大学出版会

今井貴子様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

ブレア政権から学ぶことはいろいろありますね。
ブレア政権が「ステーク・ホルダー社会」というビジョンを提示したとき、経済界やその他の人々からは、ほとんど受け入れられなかった。それでブレアはすぐに(一週間で)これを撤回して、スマートに立ち振る舞うのですね。当時のことを思い出しました。ブレアは、自らの政治理念や政治のビジョンについて、国民の支持、とくに財界からの支持が得られなければ撤回するという、プラグマティックな感覚をもっていた。
しかしこの「ステーク・ホルダー社会」というのは、イギリスの自民党も提唱していたものなのですね。その重鎮のダーレンドルフも描いていた、というのは興味深いです。
 イギリスの労働党はブレア政権に至るまで、18年間、政権をとれなかった。政権をとるために、労働党はなにをしたのか。まず言えるは、その前の前の党首のキノックが、かなり現実路線を切りひらいたということ。しかしキノックには首相になる器がなかったというわけですね。ブレアは、キノックの築いた路線を継承することに成功した。
それから「均衡財政」という政策理念。そして減税、それから規制緩和。こうした政策を保守党から継承することで、国民の支持を得ることができた。市場の信頼を損なわずに政権を運営することができた。
 ブレアの政治は、「第三の道」の政治として知られていますけれども、実際には、「何も変えない戦略」を探ったのであり、そこに教育と国民保健と若者の就労支援を加えたわけですね。かなり安上がりな政策であったと思います。ブレア政権は控えめな公約を掲げることで、実現力を示すことができた。しかし「第三の道」という大きなビジョンに支えられて、政治の大きな転換を演じることができた。こうしたやり方は、現在の日本の野党が学ぶべき点を多々示しているかもしれません。


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