■健康推進政策を正当化できない理由
玉手慎太郎『公衆衛生の倫理学』筑摩選書
玉手慎太郎さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。
肥満はよくない、健康が望ましい。だからといって、健康のためにどんな社会政策でも正当化できる、ということにはなりません。本書はその理由を四つに整理しています。
一つは、過剰な介入になるということ。健康になることと、介入されることのあいだには、トレードオフがあります。介入されるくらいなら不健康のまま生きたい、という人もいるでしょう。(介入は、介入してほしいという意思をもった人に限定できればいいのでしょうけれども。)
第二に、健康のための政策は、その目的が、別のところにあるかもしれません。政治的に利用されてしまう可能性ですね。
第三の理由は、アンビバレント、つまりどちらにも解釈できると思いましたが、「健康は自己責任だ」という倫理は、健康のための政府介入を最小限にする。これに対して「政府は人々の健康を配慮すべきだ」という倫理は、政府介入を求めます。しかしかりに政府が健康政策を推進しなくても、周囲の人々は他者の健康を配慮すべきである、という共同体の倫理は、残るかもしれません。
第四の理由も、同じようにアンビバレントだと思いました。健康は自己責任だ、という倫理は、不健康な人に烙印(スティグマ)を押すことになるでしょう。しかしこのスティグマは、政府があまり介入しなくても、社会的に生じるでしょう。