■イギリスの労働党が政権をとれない理由

 


 

ポール・コリアー/ジョン・ケイ『強欲資本主義は死んだ』池本幸生/栗林寛幸訳、勁草書房

 

池本幸生さま、栗林寛幸さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 

ポール・コリアーは前著『新・資本主義論』で、自身の政策ビジョンを魅力的に描きました。今回はジョン・ケイとの共著で、イギリス労働党の進むべき道を分かりやすく説明しています。

ジョン・ケイは、『世界最強のエコノミストが教える お金を増やす一番知的なやり方』などの邦訳もあるエコノミストですが、今回の共著で、経済学批判とコミュニタリアニズムの考えを明確にしています。

 それにしても、イギリス労働党は、21世紀になって、ブレア政権以降は、政権をとれていませんね。どうしてでしょうか。本書の分析によれば、もはや人々は、所得によって支持政党を選ぶわけではなく、支持政党を決める要因として、年齢と教育水準が重要になっている、ということなのですね。

 18歳から24歳までの若者は、労働党を支持する傾向がある。保守党支持者よりも労働党支持者のほうが、35%も高い。しかし、70代以上の人は保守党を支持する傾向がある。保守党支持者は、労働党支持者よりも、53%も上回っている。

そしてまた、両党の支持率が等しくなるのは、39歳なのですね。

 高齢者が保守党に投票するので、労働党は政権をとることができない。

他方で、大学を卒業した人は、労働党を支持する傾向があるのですね。最近では人口の半分が大学に進学するようになった。ということは、このまま大学に進学する人が増えれば、将来、労働党が政権をとれる可能性はありますね。

 いずれにせよ、いま、人々の投票傾向が流動的で、ポピュリズムの政権が台頭する余地がある、ということですね。流動化した人々の投票傾向を、どのように受け止めて、二大政党制のシステムを実質化するのか。

 本書のビジョンは明快です。個人主義に抗する地域分権型のコミュニタリアニズムです。強欲(greed)に反対する倫理経済、また、権威主義的な企業組織に反対する分権的な企業組織、などが示されます。

 


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