■ロールズは事後的再分配ではなく事前の介入を正当化した

 


齋藤純一/谷澤正嗣『公共哲学入門 自由と複数性のある社会のために』NHK出版

 

齋藤純一さま、谷澤正嗣さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 

 ロールズは、『正義論』ではリベラリズムという言葉をほとんど使っていないのですね。ロールズは自分の立場を古典的リベラリズムと区別して「民主的な平等」と呼んだ。このロールズの立場は、一般に、社会民主主義と福祉国家を正当化したものとみなされましたが、これは必ずしも正確ではないのだと。

 例えばロールズは、アファーマティヴ・アクションを正当化するよりも、そのような政策が不要なほど、教育の機会が平等な社会を追求する。また、たんに所得の再分配を求めるのではなく、最も不利な人々の「生の見通し全体」が改善するように要求する。つまりロールズは、「事後的な救済」ではなく、「事前の(段階での富と人的資本と資本の)分散」が必要だと考えたのですね。

そのための具体的な政策を検討すると、例えば、相続税や資産税の強化や、教育や職業訓練の強化になるのですね。しかし「生の見通しを改善」するためには、毎年、事後的に再分配することも必要でしょう。事前の救済を理想的な仕方で実現することは難しいからです。

ロールズは、「財産所有民主主義」を望ましいと考えました。これのビジョンは例えば、生産手段の共有(協同組合的な所有)を一つの理想としています。ロールズの財産所有民主主義を具体化する制度は、他にもあるのでしょう。例えば、社員がすべて株を所有して、その株を退職するときまで売ることができない、といった仕組みです。しかしロールズは具合的な検討をほとんどしていないので、あいまいなのですね。

ロールズの思想から、何らかの実行可能な政策を引き出そうとすると、結局、何らかの福祉国家政策になるでしょう。ロールズから一貫した仕方で資本主義に対抗する財産所有民主主義のビジョンを引き出すことは難しいと思いました。これは私の想像力が欠如しているからかもしれません。

新しい連帯のための政策(189)は、「事後的補償から事前の保障へ」「格差の再生産を止める」「パターナリズムからの脱却」「現物給付の拡大」「労働中心主義を超えて」という五つの理念(スローガン)にまとめられています。具体的には、積極的労働市場政策、当初分配、ベーシック・インカム、参加所得、ベーシック・サーヴィス、が挙げられています。これらの政策は、ロールズのいう財産所有民主制から導かれているわけではないのですね。ではどんな「連帯」の理念に基づいているのか。より実践的には、人的資本の蓄積や発展(社会的投資による)、あるいは、市民社会における強い自尊心の提供と承認、といった考え方に基づいて正当化できるのではないか、と思いました。


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